第9話 おわりに
2021年11月でもって、当事務所を創業してから満50年となった。本来なら、大々的に記念パーティーでもするところだろうが、生憎、コロナ感染拡大の最中でもあり、それは諦めた。モノ余りの時代なので、邪魔にならないようにと小ぶりの記念品を作り、それを持参して私が全ての顧問先に御礼の挨拶に回った。翌年、2月には50周年記念講演会を開催し、講師は国際的なアルピニスト野口健さんである。多くの方にあんな有名人を良く呼べたなあと感心された。コロナ禍なので集客が懸念されたが、若干の直前キャンセルがあったものの約100名の出席があった。野口氏もコロナ禍でしばらく振りの現場だったのか予定時間を15分もオーバーする熱演をして頂いた。講演会は毎年開催しているが会の後は懇親会があり、そこで顧問会社同士での交流の場になるのだが、コロナ禍なので残念ながらしばらくお預けである。また、講演会では毎回、第2講師として私が「メディアが報じない不都合な真実」とのテーマで約1時間話すが、それを楽しみにして来てくれる客も多い。内容は様々だが、その多くのテーマは、当事務所ホームページの「深田一弥の異見」に掲載してある。但し、文字にして公表するとテーマによってはかなり対外的な懸念もあり、やはり講演会の方が深い内容が聴けると言うことで好評のようだ。
2022年3月で私も満79歳となり、今のところは元気で毎日定刻に出勤して、夜も8時頃までは居る。車の運転も無理をしないのでしばらくの間無事故無違反を続けている。78歳の免許更新時には認知症テストも満点で、実地運転も特に教官からの注意はなかった。でも慢心せず安全を心がけて運転している。後継者については、息子が税理士資格を取り、東京で2つの事務所を経験した後、当事務所に入り10年を経過したので2年前に所長を譲り、私は心持ち楽になった。
当事務所は定期巡回している殆どの関与先については、税理士法上の「書面添付」をしているので、200件ほどある定期巡回監査先についての税務調査は極めて少ない。但し、中には上場会社の子会社・関係会社が何件かあるので、親会社に税務調査が入るとどうしてもそういう会社にも地元の当局が調査に入る。そういう際は比較的時間に余裕がある私が立会いすることになる。最近の税務調査は、私の開業時の頃とは異なり、調査官の態度も極めて紳士的で、金融機関の営業担当も務まるのではないかと思える程、礼儀正しく言葉使いも丁寧である。しかし、たまたまなのか中には極めて自信過剰な担当官もいる。指摘してきた事に対して、こちらで丁寧に法的根拠を示して説明しても自分の意見を曲げず、駄目だの一点張りで押し通して来る。しょうがないな、これでは上司に直談判しないといけないなと思い、取り次ぎを依頼しても、「我々を信用できないのか?」と断られてしまった。やむなく私から直接上司に連絡して会うことになった。上司は「先生、今頃来ても遅いよ!もう親会社管轄局に結果を伝えた」と言う。私は「それでは当該社分については修正申告に応じませんよ。更正してきたら必ず不服申し立てをします。こちらが絶対勝ちます。何故なら私の説明は、国税庁が出した通達と事務運営指針に準拠していますので」と言った。その上司は、一応分かりましたとは言ったがどうなることかと思っていた。しばらくしてその子会社の経理責任者から「親会社から、当社は税務上指摘なしと言われました」と喜びの電話があった。未だ未だ飯塚毅先生から教えを頂いた「租税正義」のために老骨をむち打っても頑張らないといけないと思っている。