会長 深田一弥の異見!

2013年2月4日

TPPの実体を明確に

 最近TPPと言う言葉がマスコミの話題に上がることが多い。TPP参加については、以前から国内で賛否両論が渦巻いているものの、その詳しい内容を国民が知るに至っていない。マスコミも農畜産業へのデメリットを大げさに取上げる程度で、実体を伝えているとは言い難い。

 TPPとは、もともとシンガポール、ニュージーランド、チリ、若干遅れてブルネイが参加し、環太平洋のこれら弱小国同士で関税障壁をなくしお互いの貿易を活溌にしようとの戦略的協定である。この4カ国を原加盟国と言う。そこに拡大交渉国としてアメリカやオーストラリア等の国々が加わってきた。また原協定にはなかった「金融」と「投資」を協議対象にしたことから特にアメリカが国益に絡んで熱心になってきた。

 宇野首相の頃からアメリカは、日本の構造が国際的に見てフェアでないのでそれを変えるべきと、つまり構造改革を主張し始めた。その流れで宮沢首相の時からアメリカは日本に対し毎年「年次改革要望書」を出している。

 相互協定なので我国からもアメリカに要望を出しているが圧倒的にアメリカからの要望が多い。内容は多岐に亘り、金融・投資は元より、各種法制度医療等の分野にまで及んでいる。この要望に従い小泉首相は持論でもあった郵政改革を行った。その他にもアメリカの意思に沿う改革を行った小泉政権は長く続いたことは言うまでもない。

 しかし、民主党政権になって鳩山首相は「年次改革要望書」を廃止し、アメリカの怒りを買った。その後を受けた菅首相はそのためTPP参加表明をせざるを得なかったと言われている。もし日本が参加すれば、日米でTPP参加国のGDPの実に9割を占めることになり、TPPは実質日米貿易協定となるのは目に見えていて、当然アメリカは、日本を標的にしている。

 TPPに医療分野はないが、医師会が反対しているように結果我国の医療制度に影響大となる。我国の医療保険は世界に冠たる国民皆保険の健康保険制度がある。そのため日本がTPPに加盟して、民間医療保険が他の国よりも活用しづらいと「投資」分野の協定違反になる。そうすると混合診療もやむなしとなり、結果医療制度が変わってしまう。民間医療保険の保険料が嵩み、健康保険の縮減になり、多くの国民には不利となる。

 それではそこだけ我国の制度を守れないのかと言うと、「投資」分野にISDS条項「投資家対国家の紛争解決」を盛り込まれると、日本国内で不利な扱いを受け、損害が生じたとして医療保険会社がICSID「国際紛争解決センター」に申立て我国に補償を求めることができる。

 またTPPにはラチェット規定と言うのがあり、後戻りできない。

 またサービス分野で言うと税務業務は日本では我々税理士の独占業務であるがアメリカ始め多くの国々にその制限はない。アメリカの巨大税務サービス業会社(NY証券取引所上場)が日本国内で業務ができないと、日本国に対して損害賠償請求が可能となるが、それは税理士制度の壊滅に繋がる。税理士の手前勝手な論と思われるかも知れないが、こういう制度破壊が多くの分野で起きるのは必定だ。

 それは国民利便の向上になるのでドンドン進めるべきと言う人もいるであろう。また自動車や家電品のように相手国が関税を撤廃ないし低くすることで輸出が容易になり、我国の経済活性化に貢献できると言う論も確かにある。

 いずれにせよ、我国の構造が大きく変貌していくのは確実と言える。それをやむなしとするのか、否とするのか。ここは十分な議論が必要であり、そのためにはバイアスの掛かってないTPPの実体をより明確にする情報提供がマスコミや行政に求められる。


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