給与アップは大企業を中心に盛んだが
メディアは盛んにインフレだと報道しているが、景気がそれほど良くなっているとは思えない。以前にもここで述べたようにインフレ本来の意味は景気が過熱して消費需要が供給を上回るために品不足となり価格が上昇する現象をいう。
しかし今は、景気も良くなく消費者の需要はそれほど上がらないまま様々なコストが上昇し、それを企業が価格転嫁することで価格が上昇している。そのため価格転嫁がしにくい中小企業の経営は厳しく、手取りが増えてない庶民生活は苦しさを増している。
コスト上昇したのは、日本は輸入大国となってしまい食料品はじめ生活必需品の多くが輸入品のため現在の超円安現象で価格が上がってしまった。さらに人手不足によりベーシック労働の賃金上昇もあって、企業のコスト上昇となっている。
年明けとなり、メディアでは大企業中心に給与アップの報道がなされている。評論家はこれにより一般消費も上昇してくるのではと期待している。私の懸念は、大企業給与アップの原資は企業利益であろうがその利益は経営努力で売上増となった結果であるのなら喜ばしいことである。
しかし、よく巷で聞こえてくるのは、大企業と取引している中小企業の悩みは、なかなかコストアップが価格転嫁できないことだと言う。我々税理士事務所の顧問企業の殆どが中小零細企業なのでこういう声を良く聞く。我が国経済が活性化しないことの一因に中小企業の生産性が低いことがよく挙げられる。
しかし、昨年秋に日本商工会議所会頭が新聞に意見を掲載していてそこには中小企業の生産性が上がらない原因の一つに大企業が取引において優位性を持って中小企業に対し取引価格を上げないことだと喝破していた。
私の懸念は大企業給与アップが取引先中小企業への価格を抑えた結果の利益からとなってはいないかだ。先日、労働組合「連合」の会長は格差是正のためには「中小企業にも6%以上の賃上げを要求する」と言っている。しかしそれを言うなら、ほぼ大企業である「連合」の傘下企業に対して下請等取引企業にも6%以上価格アップをすべきと言うべきだろう。結局、大企業労組出身の彼女にそういう想像力は無理なのかも。
岸田前首相は盛んに企業に向けて賃金アップを要請していた。それに応じることができる企業は大企業を中心にあることは確かだが我が国の98%を占める中小企業に応じることができる数は限られていた。大企業は輸出企業をはじめとして円安を享受できる企業は賃上げを始めた、それで政府寄りの評論家はこれで景気回復が始まると言っていたがそうはならなかった。
景気回復には積極的な公共投資と消費税制度を変えることしかないと思う。その場合、公共投資の一般競争入札についても国や地方自治体の提示する金額は受注した企業が十分利益を計上できる価格にすることが必要だ。赤字受注工事をいくら行っても景気を活性させることはできず、単に無駄金をばら撒くだけだ。受注業者が利益を出してこそそれがその企業と取引している企業も利益となり利益の回転が景気回復になってくることが官僚は理解できないのだろうか。
今回も大企業の給与がいくら上がってもそこの社員は良い思いがしてもそれは僅かな経済活性効果しか生まない。大企業は下請等取引企業へも適切な価格アップをし、利益の出る公共工事で業者が潤いそれが中小企業にまで波及し、消費税率をせめて5%程度にまで下げれば景気回復は達成すると思う。