通勤手当の非課税限度額
サラリーマンが勤務先から受取る給与と共に通勤手当がある。通勤手当は大抵の場合税金が掛からず、いわゆる非課税所得として税法に規定されている。所得税法の第9条(非課税所得)第1項第5号に「給与所得を有する者で通勤する者(以下この号において「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの」とある。
政令で定めるものとは、所得税法施行令第20条の2(非課税とされる通勤手当)の1号から4号までにあるが、これは一般的には表となって知られている。1号は、公共交通機関を利用する場合で合理的な経路、方法による運賃の額。2号は通常自転車等交通用具を利用する場合で通勤距離が2㎞以上の場合でその距離により6段階に分かれて金額が定められているが、公共交通機関を利用する方が高い場合はその金額を支給できる。3号は定期乗車券を支給する場合で金額は1号に準じている。4号は、1から3号までの何れかあるいは全てを組み合わせて支給する場合である。1から4号まで何れも1ヶ月10万円が限度となっている。最高限度が10万円になったのはバブル時期からで当時遠方からの新幹線通勤や高速バス通勤が話題となったので記憶にある人も多いであろう。
ところで一見合理的に見えるこの通勤手当の非課税規定であるが、本当にこれで良いのだろうか?遠くから通ってくる者への恩典が大き過ぎはしないか。大震災でも経験したが、勤務先に何か非常事態が起きた時に役に立つのは近くに住む者である。遠くに住む者は交通機関がストップしたら役に立たない場合が多い。
また仙台市内で実際あったことだが、ある団地内スーパーの店員で隣接団地に居住している者は、通勤に山を下り、かつ登って来るので多くの場合ミニバイクを使用している。これを公共交通機関の利用だと団地間のバスがないためかなり遠回りとなり本人にとってもお店にとっても時間と費用が馬鹿にならない。お互いの利便が一致して店は件のバイク通勤者にバス1区間分の通勤手当を出し非課税にしていた。
この企業が税務調査を受けた。真面目な女性調査官は、所得税法施行令第20条の2の2号から通勤距離が2㎞未満のバイク使用なので全額課税になりますと源泉税の追徴をした。対象者が数人いたので経営者は納得できない。相談を受けた私は、実状を説明して当女性調査官の上司に食い下がったが、ただ頭を下げるだけでどうしようもない。何故こういう理不尽が起きるのか?それは所得税法の規定が人事院規則等の公務員の通勤手当を下敷きにしているからだ。
かつて公務員は官舎に入り自分で居所を選べないし転勤で自宅から遠くなる人も居るので、負担を公平にするためのことと推察される。しかし、そういう場合は考慮されても自分の都合で遠いところに家を構えた者まで救う必要はないだろう。公務員の場合はそれだけ財政負担が増えることも看過できない。中小零細企業にすれば1ヶ月10万円はあまりに高額だし、上記のように実状に則して非課税とする規定も必要だろう。
何でも公務員に習うことはそろそろ止めるべきだ。因みに当事務所では通勤時間・距離に関わらず全て同額の通勤手当(課税になる者も居る)を支給している。