会長 深田一弥の異見!

2014年5月1日

景気対策はこれで良いのか?

 円高不況を脱却するとしてアベノミクスが始まって早1年以上が経過したが、景気は良くなった感がない。アベノミクスは3本の矢として第1の矢は大胆な金融政策で2%のインフレ目標、無制限の量的緩和、円安による輸出の拡大。第2の矢は機動的な財政政策で、大規模な公共投資、資金は日銀が買いオペで建設国債長期保有し提供。第3の矢は民間投資を喚起する成長戦略で、低金利融資で民間投資を推進、若者や女性を活用し健康長寿社会から創造される成長産業の育成と言う。

 しかし、未だ途中とは言え、悪影響の方が際立って見える。第1の矢で円安を招いたが既に日本は円高社会に対応し低価格の輸入品が生活に密着していたが、円安でそれが難しくなった。また価格抵抗力のない中小企業は仕入高で経営が圧迫されている。円安は輸出企業に外為の利益はあるが、輸出量は左程増えず、その下請け企業等取引企業にその波及効果は殆どない。また円安で価格競争力が低下した周辺諸国の輸出産業は苦境に陥り、そうした国々への輸出も難しくなっている。

 第2の矢は、資金は豊富でもこんな状況では民間投資が積極的にならない。公共投資も低い予定価格で入札不調が多く工事が進まない。震災地域でそれが顕著だ。第3の矢は具体性が乏しく、中小企業向けに色々対策を講じているが、第1第2の矢がこんな状態では効果は殆どない。

 かつてはケインズ政策に見られるように財政政策が景気浮揚には必須であった。しかし昨今言われるのは、それは成長社会の話で、成熟社会では効果がなく、それに代わったのが金融政策で、それでノーベル賞を取った学者がかなり居る。しかし未だ財政政策は力を失っていないと言える。1930年代は世界的な不況で、各国がその脱却に苦しんでいた。その中で満州に進出した日本は300万人居た失業者を5年間で27万人にまで減少しいち早く不況から脱却した。しかし他国への侵略なので現代の参考にはならない。

 アメリカはルーズベルト大統領がニューディール政策を掲げTVAに代表される大規模公共投資を行ったが当時1200万人の失業者は5年経っても未だ783万人も居た。一方、第一次大戦敗北の賠償で瀕死の財政状態のドイツでヒットラーは、なけなしの資金を投入しアウトバーンの建設に着手した。この際、工事に関わった全ての者に利益が配分されるようにし、それを破る者には懲罰的な税金を課して防いだ。その手法を繰り返し全土にアウトバーン網を張り巡らし5年間で600万人居た失業者を43万人にまで減少させた。このアメリカとドイツの違いは何か?景気対策とは全ての者に利益が行き渡るようにすることなのだ。

 翻って我が国の現状を見ると正にニューディール政策失敗の轍を踏んでいるように見える。低い予定価格の公共工事に地元中小建設業は赤字を恐れて応札せず、やむなく受注した大手ゼネコンは自らの利益を確保し赤字は下請けに負わせる。この構図では絶対に景気は良くならない。工事に携わる者に全て利益が行き渡るようにすると工事価格は高くなるが、その利益で購買力が増え、必然的に物価が上がり結果緩やかなインフレになり、当然に円安にも振れることになる。アベノミクスは順序を違えて先に円安とインフレにして景気を良くしようとしている。

 しかし、それでは不況のインフレ物価高としかならずに、庶民や中小企業等の弱者が苦しむことになる懸念が大きい。


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