会長 深田一弥の異見!

2023年8月17日

日経新聞大機小機欄「「消費増税=景気悪化」の誤解」に反論

 日本経済新聞8月12日の大機小機欄に表題の記事が掲載された。筆者の(魔笛)氏は、同新聞の政府寄り、大企業寄りの記事の中にあってもそれらに忖度せず大胆な意見が多く私は密かにファンであった。しかし、今回は正直がっかりした。

 彼の論は「消費増税でも景気悪化しない」というとても事実からかけ離れた論である。消費税による景気悪化説に根拠はないとして、「公共経済学では消費増税は消費の費用を上げて労働供給意欲をそぐから、生産が減って消費に回せる物が減ると説明する。だが、もともと消費不足の状況なら、生産能力の低下は景気に影響を与えない。」と言う。公共経済学を私は知らないが恐らく消費と生産の均衡論なのだろう。実態は消費増税で消費が減退し、企業の生産も減退するから景気が悪化するので、生産能力の問題ではない。

 また「動学マクロ理論が導く効果は異時点間消費配分、つまり駆け込み需要と反動減だ。それなら年間を通せば増減効果は相殺される。実際、過去の消費増税時を見ても経済トレンドは変わっていない。」動学マクロ理論にも私は無知だが、駆け込み需要と反動減は認めるものの、経済トレンドが変わっていないと言うならその事実を明確に示すべきだ。さらに「消費増税が景気を悪化させるという理屈は、オールドケインジアンの消費関数と乗数効果しかない。(中略)経済全体の動きを考える現代の理論家には完全否定される」としているが、そういう現代の理論家は誰なのかを明確にすべきだし、その理論が正しいのかは疑問である。

 消費税率が5%から8%、そしてその後10%になって、消費不況に陥ったままの日本経済をどう説明しようというのだろうか。「消費税は金持ちに有利。貧困層に不利という主張もあるが、確保した財源を貧困層に使えば、問題は解決する。」と乱暴な主張をしている。そんなことは実際には行われていないし、今後もそんな小手先で貧困層が救えるとはとても思えない。

 加えて彼は「消費税率と経済活動に関係がないことは、各国のデータを見てもわかる。新型コロナウイルス禍前の(中略)日本の消費税率は経済協力開発機構(OECD)中、下から4番目で、欧州諸国はほぼすべて20~25%だ。一方、日本の経済成長率は非常に低く、(中略)このように「消費税=景気悪化」という図式に根拠はない。」としている。

 先ず、欧州付加価値税と我が国消費税は似て非なる事を指摘したい。両者ともに法律だけを見れば企業の付加価値について課税するいわば第二法人税(所得税)である。欧州付加価値税は税率が上がってもそのまま価格に反映されるわけではない。しかし、我が国は消費税と言うように消費者が負担することになっている。そのことは消費税法の規定にはないのだが、税制改革法において転嫁を要請されている。だから我が国では消費税率が上がるとそのまま価格に連動し、それで消費が減退する。彼の論にはここに間違いがある。

 彼は「現実の政策決定では真偽を問わず、わかりやすい理屈が支持を得る。そのため、政治家は安易に飛びつき、それにこびる論者も現れる。その結果、景気も回復しないまま、政府財政は最悪の事態になっている。」と主張しているが、では長らく続いている景気低迷は消費増税でないのなら何が原因なのかを問いたい。また景気に関係ないから政府財政のために消費増税をすべきと言うのか?かなり勉強家のようだが、学者の論に溺れるのでなく現実の事象もよく見るべきだ。


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