会長 深田一弥の異見!

2013年11月2日

労働行政と雇用不振

 家族と十数人の従業員を雇っている老経営者が憤慨していた。彼の職場である朝出勤した中年の社員が突然体調不良で倒れた。直ぐ救急車の手配をし、早急な手当で命に別状はなかった。家族からは職場の対応に感謝され、やれやれと思ったところ、労災保険申請を要求された。

 当人は毎年の検診で医師からいくつか指摘され改善を言われていたこともあったので労災適用は無理と思った。しかし社会保険労務士に相談すると適用申請した方が良いと言われた。適否の判断は労働基準監督署で行うので、申請を雇用者が拒否すると後に大きなトラブルとなる懸念もあるとのアドバイスで労災保険の申請をした。

 数十年前社長は一人で事業を立ち上げ、従業員を雇うようになっても早朝から夜遅くまで働き、従業員には極力無理をさせないようにしてきた。従業員が結婚し家族もできると少しでも多くの所得が必要と思い、能力を少しでも引揚げてやろうと終業後や休みの日に従業員のため研修や指導までした。従業員の中にもそれに応え頑張る者も多く出てきた。

 しかし仕事の性格上労働時間の管理が難しく、残業手当の計算はせず、自分で各人の能力や仕事の状況まで全て頭にいれておき、あとは賞与の際にそれに応じて支給額を決めていた。それで文句を言う従業員も居なかったし、それが不満で辞めていく従業員もなかった。皆勤続年数が長く、満足とはいかないものの、まあ何となくお互いの信頼関係で職場を維持してきた。従業員には「ウチは例え経営不振になっても自分が我慢してリストラはしない」宣言していた。倒れた本人も職場に不満がある訳ではなく、労災なら治療費の負担が軽くなるとの単純な考えだったようだ。

 社長は労基監督署に呼ばれ半日ほど事情聴取を受けた。その後別な監督官が労務管理の実態を調べたいと職場に来た。これの資料を出せ、あの資料を出せ、これはないのかなどの丁寧でも厳しい言葉で詰問された。老社長は自分の信念を語ったものの、「やはり法律ですからそのとおりにして頂かないと」の一言で片づけられた。それから1ヶ月ほどしてその調査官から労基監督署に呼ばれた。

 別室で改善勧告書と指導通知書を渡され2ヶ月以内に改善報告書を出せと言われた。もし従わないと送検することもあると脅された。見ると、朝の掃除、朝礼、社長が自分の時間を削って資料を作成し従業員のためにとした研修時間そして従業員が何か疑問に思って就業時間後に調べものをしたのも全て労働なので時間外に計算しろと言う。人には手際の良い者悪い者覚えの良い者悪い者気づきの早い者時間を掛けてもひらめかない者色々居るので一律に残業手当は支払わないとの考えは否定された。

 ウチの仕事は工場内のベルトコンベヤーの仕事とは違うぞ、専門職だと言っても、「法律はそうなっていますので」とニベもない。「仕事の遅い人には教育指導で効率化を図って下さい」と宣う。その社長はちょっと待てと言った。「時間ばかり気に掛ける奴の仕事は上っ面だけでかつミスが多い、仕事のできる奴はじっくりと時間を掛けて頭の中を整理している。

 法律は法律だがこういうことが日本の職場を駄目にした。労働法の考えは、雇用者「強で悪」、労働者「弱で善」だ。これでは日本の企業は益々正規雇用をしなくなるし、中小企業の経営者は従業員を採用する意思をなくしてしまう。我国の雇用環境がなかなか改善しない原因の一つに労働行政の対応もあると感じた。


最近の投稿

もっと見る