会長 深田一弥の異見!

2015年7月28日

会計監査人は取締役会に指名させるな

 日本を代表する電機メーカーのT社が過去の決算に「不適切な会計」があったとマスコミで取り上げられた。「不適切な会計」とは、かつて良く言われた「粉飾決算」とどう違うのかと思ったが、どうやら似たようなものらしい。報道機関によっては「不正会計」と言っているのもあるので、やはり粉飾決算なのだろう。はっきりと「粉飾決算」と言えば良いのにその言葉は、監査の専門用語ではなくなったのだろうか?それとも広告主と言うマスコミにとって大得意先であるT社に遠慮しての書きぶりなのか?かつての旧軍が「退却」を「転進」と言い換えたのを思い出した。

 T社は電機メーカーとしては我が国の草分けで、原発や発電機という重電からテレビ等の家電まで扱う世界的な総合メーカーである。何故こんな事が起きたのだろうか?我が国にはT社と同様に総合電機メーカーのH社があるが、H社は一時期T社同様業績低迷に陥ったものの、最近業績が急回復しているようだ。それもあってかT社の経営陣はかなり焦ったのではないか。そこで社長命令で目標利益達成を強要したようだ。実際に利益が挙がれば問題ないが、そこは経営陣と会計業務担当者との阿吽の呼吸で、利益の前倒しや損失の繰延べ等の粉飾決算に手を染めることとなったらしい。しかし、そういう名門企業でしかも長く東証一部上場会社である企業が粉飾をしていたのを監査役や会計監査人である監査法人が見抜けなかったのだろうか。

 ところで、現行会社法では会計監査人は株主総会の決議で選任するとある。しかし、株主総会では既に原案ができているだろうから、実態は取締役会で会計監査人を指名するのだろう。かつて監査法人に居た友人は、当時ある大手メーカーの監査を担当していたが、その監査チームで会社に厳しい意見を言う者が居ると、その者を次回は外してくれと圧力を掛けて来られたと言う話を聞いた。会社からすれば我々が報酬を払っているのだからそんなに厳しいことを言わずもっと手心を加えろと言うことなのだろう。これでは会計監査の機能が正しく機能するはずがない。会社の不祥事が起こる度にその会社の会計監査を担当している監査法人や担当公認会計士が処分されるのは現行制度に問題があるのだろう。コストを負担する者はその負担者に有利になるように努力するのが経済の道理だからである。

 元々会計監査を外部監査人である監査法人が行うのは、株主をはじめとする会社の利害関係者に対して、株主から経営を委任された取締役が作成する決算書の正確性を証明するためであろう。そうすると監査の機能を正しく発揮するには、株主が会計監査人を依頼すべきなのではないか?しかし、株主の意志は株主総会でしか反映する機会はないのでその指名を取締役又は取締役会が行っているのだと思う。だからいつまで経ってもこのような事が起きてくるのだ。

 私の意見は、監査役が会計監査人を指名することにしてはどうだろうかと思う。会計監査人の報酬は監査役から株主総会にその予算承認を得て、会社からではなく監査役から支払うことにする。しかし、あくまでも監査役が公正であることが条件ではあるが。我が国では監査役もどうかすると取締役会の意向が反映する場合が多いと言われているので。それでも監査役が会計監査人を指名し株主総会の決議で選任することになれば監査役の指名責任も免れまい。今よりは少しはまともになるのではと思うが。


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