会長 深田一弥の異見!

2012年6月18日

中小企業の会計基準

 平成24年2月に、中小企業のための会計基準として「中小企業の会計に関する基本要領」が公表された。これで10年来続いていた中小企業のための会計基準の議論が一応の決着を見た。

 我国は国際的に見ても企業の会計が比較的几帳面に行われている。ところがその拠り所となる会計基準は、企業会計原則から始まり、商法、証券取引法等に定められており、企業規模に限らず全ての企業が従うべき基準いわゆる単一基準となっている。

 その会計基準が国際化の流れで国際会計基準の影響を受けるようになってきた。本来、国際会計基準と言うのは、外国の株式市場に上場するような企業向けの基準なのだ。それでも国外で商取引する企業も国際的に同一の基準の決算書の方が便利なので大企業を中心として国内会計基準も国際会計基準の要素を取入れた改正が進んできたのはやむを得ない。そのため、新聞紙上等に会計基準が時価主義や税効果会計を取入れるとの記事が載ると、真面目な中小企業の経営者は動揺するという現象が起きている。

 我国に会社は250万もあるが、その99%はいわゆる中小企業で、その殆どが国際会計基準とは無縁のはずなのに単一基準とはそういうところまで適用が強制される。しかし、現実は、中小企業では会計基準に忠実でなくまたそのような変化も無視した決算書が横行し、単一基準のあり方は既に破綻していた。中小企業は概ね自己資本が脆弱であり金融機関からの借入金に頼っている場合が多い。その金融機関が従来の担保主義から返済可能性としての決算書重視となってきた。

 そうなると途端に金融機関の決算書を見る目が厳しくなり、中小企業の決算書はあまりにも恣意的に作成されていると言い始めた。そのため実務家の間でも中小企業のための会計基準の必要性が高まってきた。そこで中小企業庁が音頭を取って検討が始まり平成14年6月に公表されたのが「中小企業の会計に関する研究会報告書」だ。そこには税理士会や公認会計士会等実務家団体がこれを参考にした実務基準の策定が要望された。それで税理士会は「中小会社会計基準」、公認会計士会は「中小会社会計の研究報告」を公表し、一時期中小企業の会計基準は3つにもなった。そのため3基準の統合が論議され、税理士会、公認会計士会、日本商工会議所そして企業会計基準委員会の4団体のコンセンサスで平成17年8月に公表されたのが「中小企業の会計に関する指針」である。

 しかし、公認会計士会と企業会計基準委員会は単一基準主義であり両者の主張が強く、その「指針」は少なからず国際会計基準の影響を受けることとなり、時価主義、退職給付会計そして税効果会計等が織り込まれ、中小企業にとっては厳しい基準になってしまった。

 それに異を唱えたのが日商で、中小企業により使い勝手の良い基準を作るべきとして再度4団体合意の上で出来たのが冒頭に掲げた国際会計基準の影響を受けない「中小企業会計要領」である。我国にはこれでIFRS(国際財務報告基準)、国内会計基準、中小指針そして中小要領と4つの基準がそれぞれ独立して存在することとなった。

 本来は、それらを一つの基準の中に纏め企業規模や適性に合わせて適用できるようにしていることが望ましいが、単一基準主義者はそれを許さない。中小企業の味方である税理士会がもっと頑張れると良いのだが。

 会計は、本来企業が主であるべきなのに権威を盾にした専門家が巾を効かしているのが現状である。


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