マイナカードと健康保険証
現在の健康保険証が2024年秋に廃止され、マイナンバーカードとひも付けた「マイナ保険証」に全面的に切り替わる法案が成立し、行政では既にこの作業に入っている。しかし、このマイナ保険証には現在多くのトラブルが発生していて社会問題になっている。ひどいのは自分のカードに他人の保険証とその医療内容が記録されているというもので、場合によっては命の危険にも関わってしまう。また、医療機関でも確認システムに不具合やトラブルが発生していてこんなことでは医療サービスの低下につながり止めて欲しいという声もあるようだ。
全国でマイナンバーカードの返却が相次いでいるとも聞く。こんな状況なのに何故政府は急ぐのか?我が国は先進国の中でも行政のIT化が遅れていることから行政効率化と特にマイナ保険証は医療DX進展の基盤にしようとのことからである。これには既に制度が成立してから数年を経過しているのにマイナンバーカードの取得が進んでいないことからの政府の焦りもあるのだろう。
かなり昔のことになるが1980年代に国民の預貯金の透明化を図るため所得税法に「少額貯蓄等利用者カード」(通称グリーンカード)が成立した。しかし、自分達の財産が丸裸になると懸念する一般市民や政治家、郵便局・銀行だけでなく自治体までも反対して議員立法で廃案となった。国は埼玉県朝霞市にある米軍キャンプ跡地に当時としては巨大なコンピュータセンターを作り準備していたが、廃案になり不要になった。しかし現在そこは国税総合管理(KSK)システムセンターとなって活用されている。
その後政府は国民を何らかの形で管理したいと検討を重ねたのか、2000年代になって出てきたのが「住民基本台帳」システムである。これも国民のプライバシー侵害懸念と大規模システムのセキュリティへの不安から反対が多く、福島県の矢祭町のように自治体自ら、このシステムに参加しないと公表するところも出てきた。
ところが、時代はIT化で、世界の多くの国々では行政もIT化で効率良く住民サービスが受けられていることや、我が国の行政は如何にIT化が遅れているかについてメディアを通じ、これでもかと言うほど流された。これには恐らく政府の意向も入っていたのではないかと思われる。そういう中で、個人番号制度(マイナンバー)は何故か殆ど反対なく成立してしまった。
個人番号制度は住民基本台帳システムを元に運用されている。しかし、自身のプライバシー侵害を懸念する人達は、カード取得には慎重でありそれが取得率の中々上がらない理由だと言える。政府は何とか取得を高めるため「マイナポイント」等色々促進策を講じ何とか70%を超えたが、さらに切り札として出したのが「マイナ保険証」と言えよう。
世界でも行政のIT化が進んでいるのはバルト三国のように人口少国や個人のプライバシーに鈍感な全体主義国家ではないのか。昔なら、これほどのトラブルが多く、反対が多ければ、マイナ保険証全面切り替えは諦めるだろうに、政府は頑なに進めようとしている。
先日、JR東日本のシステムがダウンし、乗車券購入にはスマホもカードも駄目で現金でのみ購入可能と言う事態になった。国のシステムだからと言って常に完璧に稼働するものとは言えないだろう。私が年寄りのせいもあるが、どんなにIT化が進んでも、アナログとの併用は絶対に必要と考えている。