ホワイトカラーの生産性
日本企業は、労働生産性が低いと言われて久しい。メディアでもよく取り上げられる。労働生産性と一般に言われているのは、付加価値労働生産性のことだろう。付加価値とは、企業利益+人件費+減価償却費で、付加価値生産性は、付加価値額を労働者一人当たりの労働時間で除した数値である。これが我が国は低いと言うことは、理由として、企業利益が低い、人件費が高い、設備投資額が少ないなどが上げられるし、或いは単位時間の労働量が少ない、つまり労働密度が低いということが考えられる。
それでもいわゆるブルーカラーだけの労働生産性は先進国中9位ぐらいにあるそうだが、ホワイトカラーだけの労働生産性となると先進国中最下位ぐらいになるそうだ。つまり、日本のホワイトカラーは勤務時間だけは長いがそれによって稼ぐ付加価値はたいしたものではないということなのだ。かつて植木等の無責任時代という映画があり、「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ!」という歌が流行った。戦後の高度成長時代には、ホワイトカラーは、それほど働くことに汲々としなくてもそれなりの付加価値を稼げていたのだろう。
しかし、高度成長が終わり、一転して低成長時代になると、企業の事務負担の重さが収益の足を引っ張るようになってきた。それでもオフィス内のOA化はかなり進んでいて、かつて、オフィスの花とも言われた事務補助担当女子社員の数は激減し、女性も男性社員と変わらず、第一線で活躍するようになってきた。それなのに、未だ日本のホワイトカラーの生産性が低いと言われるのは何故なのか?
当事務所のクライアントのある会社で、オフィスの生産性を上げるためのリニューアルや、退職社員の補充せずに残った社員で今までの仕事量をこなすこと、また働き方改革も言われているので、残業時間を如何にして減らすかなどの検討をしている。それらも議題になっている会議に私が出席していてコメントを求められた。私は、我が国の企業の社員と海外特に欧米の企業の社員との違いをも考えるべきではないかと答えた。欧米企業では多くの場合トップダウンで仕事の作業をしていくが、我が国では割とボトムアップであるのではないだろうか?いわゆる現場力ということである。
私が20年ほど前、ドイツの税務の現場を視察した際、国税局(州税庁)ではトップの長官が、税務署では税務署長が、そして税務裁判所では裁判長が自ら立ってOHP(今ならパワーポイントか?)を駆使して説明してくれた。我が国ならこういうことは中堅職員がするのではないだろうか?このトップダウンの仕組みは、下の者には都合が良く、言われたことを淡々とこなすだけで、そこに創意工夫など考える余地はない。だから効率も良くなることは明白だ。しかし、これもトップが誤ると大変なことになり、今回の某自動車メーカー外国人会長の暴走を止められなくなるようなことが起きる。
我が国の多くの企業では、ブルーカラーもそうだが、ホワイトカラーでも常に会議を開き、仕事や作業が的確に行われているかなどを平社員も含めて検証していることを良く見聞きする。だからトップの暴走も余程のオーナー企業でなければ起きにくいし、現場の声が経営にも反映されやすい。消費者ニーズにも敏感に反応して対応できると考えられる。我が国ホワイトカラーの生産性は低いとマイナス面ばかり強調されるが、こういう面もあることを言いたい。