会長 深田一弥の異見!

2022年6月1日

プーチンの思惑外れ

 ロシア軍がウクライナに侵略してから既に3ヶ月が経過した。プーチンは1ヶ月以内に占領が決着すると言っていたのに、意外にウクライナ軍の抵抗が激しく思惑通りにはいかなかった。ロシアは国際連合の常任理事国であり、国連憲章の守護者でなければならないのに、それを無視して何故他国へ侵略したのか?

 それは8年前のクリミヤ半島併合に遡る。クリミヤ半島の軍港セヴァストポリにはロシアの黒海艦隊の本拠地がある。そこはウクライナからの租借地であった。歴史的にも重要でしかも自国の第一の軍港が他国からの借地であるのはプーチンのプライドからどうしても許さなかった。その上、ウクライナは民主化されて西側勢力に傾いていたことも軍港の将来を懸念していたこともあろう。

 元々旧ソ連崩壊後のウクライナは政権基盤がしっかりせず、政権内は不正が横行し腐敗していた。そういう弱みにつけ込み2014年ロシア軍はロシア系住民の要請との理由でクリミヤ半島に侵攻したが左程の抵抗もなかった。クリミヤ併合に反対の西欧諸国はロシアに対して経済制裁をするも、何せ欧州各国はロシアの天然ガスや石油のエネルギーに頼っていることもあり、制裁の効果はあまり挙がらなかった。先ずこの成功体験がプーチンの潜在意識に強固にあったと言えよう。しかし、これでウクライナは危機意識を持ったと言える。

 それ以前にも東部ドンバス地域ではロシア系住民がロシアの援助を受けて、ウクライナから分離独立を企てていた。ウクライナ政府は軍を派遣して制圧しようとしていたが、ロシアは正規軍が民兵を装って抵抗していた。これではウクライナとしては、ジワジワとロシアに国が侵略されてしまうのではとの恐怖心に駆られるのは当然だろう。

 確かなエビデンスはないが、この頃からウクライナは米国からの軍事援助を受けていたのではないか。ポーランド国境近辺で米軍の軍事顧問団がウクライナ軍に対して米国製兵器の使用について指導をしていた映像を見たことがある。ウクライナの兵士が開戦当初から米国製の対戦車兵器ジャベリンを馴れた手つきで使いロシア軍の戦車を次々に破壊していたのを見ると、やはりそうなのかと思ってしまう。ロシアとてその情報は掴んでいたことであろう。

 その上、ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO加盟の意向を表明したことで、プーチンとしては心穏やかでは無かったと思える。ロシア軍は侵攻したものの、ウクライナ軍の思わぬ抵抗に遭って驚いたことは想像に難くない。第二次大戦時、英国の戦術家が唱えたランチェスター法則に「強者の戦術」と「弱者の戦術」があり、ロシア軍は、ウクライナ軍は弱いとみて「強者の戦術」で、北はベラルーシ、東はロシア国境、南は海側から一気にウクライナ全土を占拠しようとしたが「兵力の分散」となり失敗した。これはウクライナ軍の現況を把握していなかった情報ミスだ。

 孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず」とあるが、これは現代でも当てはまる。弱者の戦術は「選択と集中」である。ロシアがウクライナ軍の状況を知り、弱者の戦術で、全軍を一気に東側に集めていたらドンバス地方は簡単に総崩れになってしまったことだろう。ウクライナに取っては不幸中の幸いと言える。慌てて、ロシアは北側の軍を撤退させ、今度は東側に集めて来た。これも戦術の鉄則だが「戦力の逐次投入は愚策」であり、今もロシア軍は苦戦している。


最近の投稿

もっと見る