会長 深田一弥の異見!

2016年2月10日

ハリウッド映画「ブリッジオブスパイ」を観て

 「ブリッジオブスパイ」の映画はスピルバーグ監督でトムハンクス主演だが数年前同じコンビの「キャッチミーイフユーキャン(天才詐欺師とFBI捜査官の攻防で、詐欺師は逮捕され服役後彼の才能を惜しんだその捜査官の奔走でFBIに職を得た)」も秀逸な映画で何れも実話を元にしたとの事で期待して鑑賞した。スリリングな展開ではあるものの地味な内容なので一般受けするには今一つの感があった。しかし、私は当時米ソのスパイ交換が話題となったので興味があったし、映画でその交換には民間弁護士があれほどの活躍をしたことは始めて知った。

 米ソ冷戦時、アメリカでソ連の大物スパイ「アベル」が拘束された。米司法当局は国家を危険に陥れた罪で死刑も辞さない考えだが、一応民主国家の体裁として正式な裁判を受けさせる。そうなるとアベルに弁護士を付けることになるが、そんな弁護を多くの弁護士は引き受けたがらない。そこに白羽の矢が立ったのがドノバン弁護士であった。彼は職責を掛けて彼を弁護し、死刑判決を免れることに成功した。それでドノバンはアベルと信頼関係を築く。

 丁度その頃、ソ連領を偵察飛行していたアメリカのスパイ機U2が撃墜されそのパイロット「パワーズ」が拘束されてしまう。アメリカはパワーズを救いたいと思い、アベルとの交換を考えるが、事が事だけにアメリカ国家が前面に立つのは避けたい。それでアベルの信認を得ていた弁護士ドノバンが交渉役を依頼され、彼は無事この交換を成功させる話である。

 これがもし日本がアメリカの立場だったらどうだろう。日本政府は、恐らく「知らぬ存ぜぬ」で押し通し、パイロットを見殺しにするのだろうと思う。高級官僚はアメリカも日本も同じで失敗の責任は取りたくない。ただアメリカの違いは国のために頑張った者は1人でも命を保障することだ。ここはさすがアメリカの素晴らしさだ。また日本の官僚なら民間人を使って交渉させるようなことは絶対にさせないであろう。

 ところでアメリカは、当時のソ連のS75地対空ミサイルでは絶対に打ち落とされないと高をくくってU2を飛行させていたが、撃墜以来、U2は役目を終えることとなる。ソ連では高空で悠々と領空侵犯するスパイ機を地団駄踏んで悔しがっていたが、ミサイル撃墜に成功したことで溜飲を下げた。

 実はそのミサイルの弾道計算をしたのがロシア陸軍の研究所に居た当時並列コンピュータの世界的権威のヴィクトール・ヴァーシャフスキーあった。そのソ連がゴルバチョフのペレストロイカで民主化となり、軍事予算が大きく削減されヴァーシャフスキーは失職する。丁度その頃福島県に設立したコンピュータ専門の会津大学では旧ソ連解体で失職した彼を含む数人の学者を採用した。

 私は当時会津大学を見学し彼の講義を直接聴講した。彼はU2機撃墜までの計算理論を分かりやすく丁寧に説明したが私の能力ではとても理解できなかった。質問時間となり、私は、日本は敗戦後旧軍の技術者がソニーのような民間企業に移り、数々の素晴らしい技術力の製品を作り出し日本経済復興の力となった。お国(ロシア)では貴方のような素晴らしい能力を企業で活かそうという動きはないのか?と質問したところ。返ってきた答えは「それはエリツィン(当時のロシア大統領)に聞いてくれ!」であった。その能力を買われ、幼いときから閉鎖環境のエリート教育の中で育った天才学者にはそういう常識は通じなかったのだろう。


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