会長 深田一弥の異見!

2014年3月24日

クリミヤ半島と北方領土返還

 日本から遠く離れて我々にとってはその場所さえ定かでないクリミヤ半島情勢が今世界を揺るがしている。ウクライナの親ロシア政権が崩壊し、親ユーロ政権に取って代わったところで、ロシアのプーチンは一気にクリミヤ半島をロシアに併合した。同半島のセヴァストポリには旧ソ連時代からのロシア黒海艦隊の軍港があり、ウクライナが完全に西側の国家になって、もしこの軍港からロシアが退去を命じられでもしたら黒海艦隊つまりロシアにとっては死活問題だ。そのプーチンの焦りが過激な行動に出たのだろう。しかしここまで強硬な手段とは恐らく西側諸国も考えてはいなかったのではないか。

 これに直ちに反応したのはオバマ政権のアメリカでロシアに対し強硬な制裁処置を取り、EUもそれに追随した。しかし、我国は今年中にプーチン訪日で北方領土解決への期待感が高まっている時でもあり、西側諸国と歩調を合わせることの是非について今安倍政権は苦衷の選択を迫られている。

 私は、プーチンは希代の戦略家だと考える。世界がまんまと彼の術中にはまってしまったのだ。ロシアはEU諸国に対し天然ガス供給でエネルギーを押さえている。日本に対して経済協定を結び、将来の天然ガス供給も約束し、友好関係を演出して、国民に北方領土解決への期待感を抱かせ、反ロシアにならないように楔を打っておき、何より一番の相手であるアメリカの軍事力が落ちてきたことを見極めて一気呵成に事を運んだのだろう。

 ロシアはソ連時代の印象もあり、「強面」の印象だが、ソ連時代から実は極めて用心深く、自分の実力以上の事は絶対に行わず、相手が弱いと見切ったところで一気に叩くという性格だ。これは旧日本軍との対応で良く分かる。第二次大戦前の1939年に当時の満州国と蒙古国との国境紛争から実質は日本軍(関東軍)とソ連軍が戦ったノモンハン事件は戦後日本軍の敗北が明確になったが、実はソ連崩壊後分かったことはソ連軍もかなりの損害を受けていた。だから日米が戦争状態になり、アメリカから日本への参戦要望にもなかなか腰を上げず、日本の敗北が明白になり、関東軍の反撃力が無くなったところでようやく満州になだれ込んで来た。

 この侵攻は日本降伏後も続いた。しかし北支(今の内モンゴル自治区)の司令官だった根本博中将は、8月19日から侵攻したソ連軍に対し本国からの停戦命令を無視して、抵抗し戦意を喪失させ、それ以上の侵攻を食い止めた(このことは「異見」に以前掲載)。また千島列島の北端占守島にはこれも停戦後の8月18日にソ連軍が侵攻してきて日本軍守備隊はやむなく応戦し、上陸地点まで押し戻した。ここでソ連のそれ以上の武力侵攻は止んだ。もしここで日本側が応戦しなかったらソ連は間違いなく北海道まで上陸したと言われている。

 これで分かるように非常に強面に見えるプーチンではあるが、今回のクリミヤでも極めて細心かつ用意周到であったと言える。ソチ冬季オリンピックで平和的な演出までして西側を欺いていた。そこで北方領土であるが、日本側では、今回の件で、もう既に悲観的な情報が飛び交っている。しかしこの国は善意で対応すると必ず足を掬ってくるのであり、ソ連時代から今まで何度も期待を裏切られてきた。

 この件は、相手の善意に期待するのでなく、北方領土は旧ソ連時代から不法占拠しているのだから、毅然としてその非を主張することだ。ここは安倍政権も腹を括るときであろう。


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