会長 深田一弥の異見!

2012年5月14日

カリスマ経営者

 世にカリスマと言われる経営者は多い、一時代前であれば、ナショナル松下電器(現パナソニック)の創業者である故松下幸之助氏やホンダの創業者本田宗一郎氏が挙げられただろう。この二人についてはそのカリスマ性はここで述べるまででもない。現代であれば世界的には、マイクロソフトのビル・ゲイツやそのライバルで亡くなったアップルのスティーブ・ジョブスがそうであろう。我が国ではソフトバンクの孫社長や楽天の三木谷社長であろうか?いずれもIT時代の申し子である。少し前ならライブドアの堀江社長も挙げられたかも知れないが、証券取引法違反で起訴されたことで失脚してしまった。現代日本のカリスマ経営者は我々世代から見ると何となく危なっかしく思えるがどうだろう。

 さて、ここで取り上げるカリスマ経営者はかつて一代で自ら率いるDグループを日本最大の流通業に育てたN氏である。N氏の辣腕ぶりは色々なエピソードがあり、語り尽くせないし、それまで伝統的産業が巾を効かせていた経団連を揶揄したことで喝采を浴びたこともある。そのD社が店頭でのテレビ大幅値引きで松下幸之助率いる当時のナショナル松下電器と長年に亘る反目を続けていたこともある。そのN氏が今から20年ほど前、まだ氏のカリスマ性が健在だった時のことである。
  マスコミは流通業界の雄、とはやし立てていた。また日本経済もバブル崩壊前で景気も良かった。当然円高基調が益々高まっていた。その時N氏はD社の商品調達は将来全てを海外から調達する方針を示した。国内調達ではコストが高く、消費者のためにならないからとの理由である。マスコミはこれぞ低価格路線を標榜する消費者の味方とはやし立てた。そのN氏が来て講演するとなると地元の企業経営者達がまるで教祖の有り難い話を聞こうとするが如くいそいそと会場に駆けつけていたことも思い出す。

 そんな時、私は地元で100人程度の経営セミナーの講演をした。その場で私は、N氏の名を挙げ「何とアホな経営者か!」と言い放った。セミナーの聴衆は驚いたことであろう。何せ時代の寵児カリスマ経営者を一介の田舎税理士が馬鹿呼ばわりしたのだから。そこで私は理由を挙げた。「N氏は「これから商品調達は全て海外から」と言っているが、D社の店にその海外の仕入れ先は客として買いに来るのか? 国内の業者から仕入れれば、その仕入れ先は間違いなくその店の客になるのに。狭い日本ではお互いに持ちつ持たれつの関係で成り立っている。海外調達で外された業者はD社を恨むし、それはD社の競合業者を利することになる。目先の消費者しか見ていない。そういう商売の基礎も分かっていない経営者の会社はいずれつぶれますよ。」と言った。

 D社はその後バブル崩壊もあってあっけなく本当につぶれてしまった。同社が傾いた原因をマスコミはバブル崩壊による不動産投資の失敗や肉親への事業承継等を挙げた。それもあるが、経営破綻の根本原因はここにあると私は今でも思っている。まあ、前に挙げたカリスマ経営者達にも色々な裏話があるのは皆さん先刻ご承知のことと思う。

 我が国では一つのことに大成功すると、その人を全人格的に賞賛する傾向があるがカリスマと言えども所詮「欲望のある人間」と言うことを忘れてはならない。


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