エリート官僚の怖さ
少しは落ち着いたものの、昨年の4月頃から始まった円安が、10月にはとうとう1ドル150円の壁を超えてしまった。かつて1ドル70円を割ったことからすると隔世の感がある。これにより、輸入品価格が急上昇し、企業は原材料高騰を嘆き、一般消費者は生活用品高騰に青くなった。何でこんなことになってしまったのか。
2012年12月、第二次安倍政権が発足し、安倍首相は景気対策としてアベノミクスを発表した、その第一段階は金融政策で、低金利と通貨供給量を増やす金融緩和で景気回復を図り消費者物価指数を前年比2%以上に上げようとした。しかし、当時の日銀総裁の白川方明はゼロ金利や国債の日銀買入で通貨供給量を増やすことに反対であった。そのためか任期を待たずに2013年の3月で退任した。安倍首相は、白川日銀の政策に反論し、日銀はもっと大胆に金融緩和すべしと主張していた黒田東彦を日銀総裁に任命した。
2013年4月、黒田は総裁の就任後初めてとなる金融政策決定会合で、2%の物価目標を2年程度で実現するために日銀が供給するマネタリーベースを2年間で2倍にするなど大胆な金融緩和に踏み切った。黒田バズーカとも称される「量的・質的金融緩和」である。今までと次元の違う金融緩和を行うと発表したことから、「異次元緩和」と呼ばれた。
しかし2年を経過するも一向に目標の2%に達成しないことから、黒田はさらに踏み込んでマイナス金利としさらに通貨供給量を増やした。それでも消費者物価指数は一向に上がらず10年近く経ってしまった。ところがアメリカでは物価上昇が続いていて、アメリカの中央銀行とも言うべきFRBはインフレを抑えるため利上げに踏み切った。そのため外国為替市場では、我が国のマイナス金利もあり、円安がドンドン進んでしまい、前述の水準にまで達してしまった。
しかし、黒田は円安が進んでいる最中でも金融緩和政策を止めないと明言していたためとうとう信じられない超円安になってしまった。輸入品価格が急上昇し、国民生活は大変なことになってしまった。ところが何と消費者物価指数は3%を超えてしまった。
ここで私は気がついた。黒田総裁は、これを狙っていたなと。本来、消費者物価指数は景気が良くなって購買意欲が高まりそのため指数が上昇するのが自然である。しかし自信満々で自分が日銀総裁になって金融緩和政策をすれば2年程度で2%超えになると思ったのに一向にそうならない。そこで禁じ手を使ったなと。
黒田は今年3月で任期か終わる。それまでに何としても2%超えを達成しないと無能総裁の烙印を押されてしまう懸念がある。だから自分の目的だけ達成すれば良しとし、国民生活の痛みまで思いを致すような心はハナから持ち合わせていなかった。エリート官僚の怖さである。
かつて我が国のエリート軍人官僚は自分達の目的達成のためには自国の兵がどんな悲惨な目に遭っても少しも気にしなかった。例えばインパールやガダルカナルでの悲惨な戦いや既に継戦能力が無くなったにもかかわらず「国民総火の玉になって戦え」などと日本国民が根絶やしになる懸念のことまで強制した。
そう言えばロシアのプーチンはかつてKGBのエリート官僚であった。彼の極めて偏った歴史観でウクライナに攻め入り、それによりどれほど自国の兵士が死傷しても、目的達成のためには全く気にしない鈍感さ。どうしても黒田日銀総裁の超円安放置にはそれらと繋がってしまうのだが。