会長 深田一弥の異見!

2022年5月2日

インボイスは本当に必要か?

 令和5年10月1日から業者が消費税の申告の際、預かった消費税から、支払った消費税を引く、いわゆる仕入税額控除の計算では、新たに「適格請求書等」(インボイス)の保存が義務づけられる。我が国で平成元年から導入の消費税法は帳簿方式と言い、帳簿または請求書等(領収書を含む)の保存があれば仕入税額控除が出来た、その後、帳簿および請求書等となった、「または」と「および」の差は大きく、前者は帳簿か請求書等の何れかあれば良かったが、後者はその両方の保存が必要となった。それでも記帳の際は殆ど請求書等の「証憑書類」があり実務上は変わりなかった。でもこの「および」に変えたのはインボイス導入の布石だったようだ。

 日本の消費税は欧州型の付加価値税が源流だが、欧州では全てインボイスが必要である。かつて何度か欧州を訪れ実態を見てきたが、企業税務を担っている我が国税理士に相当する事務所では、企業から預かったインボイスのチェックと記帳が主要な業務であった。企業でインボイスを整理しそれを税理士等の事務所に持ち込む。我が国の帳簿方式なら事務も簡単なのに何故こんな面倒な事をするのかと思った記憶がある。しかし、我が国の財務省は以前の大蔵省当時から、消費税法成立以来インボイス導入を考えていたようだ。

 税法学者と話をする機会が多いが彼らも大抵インボイス導入論者だ。何故かと聞くとそれが正確な計算が確保出来るからと言う。しかし、帳簿方式でも正確性が担保できるのが我が国の強みである。我が国では法人税法上も所得税法上も青色申告制度があり、帳簿の正確性の担保は諸外国とは比べものにならない。欧州のインボイスは企業の帳簿に正確性の担保がないか、全く帳簿がないために必要になったとも聞いている。その意味で我が国の消費税の帳簿方式は世界に誇って良いモノである。

 私が法人会税制委員の県代表で全法連の税制委員会に初めて出席したのは平成の早い頃だったが当時の委員会はインボイス導入せよとの意見が支配的だった。それは顧問の大学教授がインボイス導入論者だったからである。私はインボイス導入がどれだけ企業のコスト増になるか例を挙げて反対した。その後当委員会でインボイス導入意見はなくなった。我々税理士業界では長らくインボイス導入は、免税が多い零細業者が取引から外される懸念と企業の事務コスト負担増となるので反対してきた。しかし、令和5年からのインボイス導入が決まってしまった。

 日本商工会議所も全国法人会総連合からもインボイス導入反対の意見は聞こえて来ない。業者団体が反対しないのを我々税理士が反対しても意味がないが、それら団体ではそれほど負担増になるとは思っていないのでは?今、我々税理士も令和5年10月を目指して勉強している。

 先ず、免税業者から仕入れるとインボイスがないから仕入税額控除ができなくなる。しかし、ある業種では課税業者でない個人から仕入れても仕入控除できる場合もある。また、交通費のように領収書がない場合でも仕入控除できるなどと複雑である。税務現場の税務署職員に聞くと、表だって言わないが、仕事が増えて大変だと心配している。インボイスが無いと消費税の課税漏れがかなりあるなら導入もやむを得ないが当局からそういう説明はない。それなのに何故また業者に新たな負担を押しつけるのか?帳簿方式が駄目でインボイスを導入すべき理由があるなら是非聞いて見たい。


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