会長 深田一弥の異見!

2023年8月7日

インボイスに関する日経新聞酒井教授の論に疑問

 本年10月1日から我が国の消費税の仕入税額控除の方式として、欧州各国の付加価値税で導入されているインボイス(適格請求書)制度がスタートする。我が国では消費税導入当初から仕入税額控除は請求書等と帳簿の記載があれば可能な我が国独特の帳簿方式である。私がかねて主張しているようにこの方式でもほぼ適正な申告がされ、我が国にインボイスの必要性は殆どない。

 何故ならインボイス導入により、事業者ばかりか課税当局、我々税理士の事務負担が過重になる懸念が大である。それもあってかその準備が事業者において順調進んでいるとは言えない。そこに8月4日、日経新聞に酒井克彦中央大教授がインボイス導入は「課税の公平性・適正性に寄与」と題しての寄稿文が掲載された。

 我が国の消費税に似ている欧州の付加価値税は、企業の付加価値に課税するのでいわば第二法人税である。実は我が国の消費税法のどこを見ても消費税を消費者が負担せよとは書いていない。法律の条文だけみれば正に欧州の付加価値税と同じく、企業の付加価値に課税される第二法人税である。しかし、消費税は消費者から預かる税金と言われている。

 それは消費税法と同時に制定された「税制改革法」の第11条に(消費税の円滑かつ適正な転嫁)として企業は消費税を転嫁しなさい。つまり消費者から取りなさいよと書いてあるだけで、消費税法ではなく、他の法律で転嫁を勧めているだけなのだ。これも大問題で、消費税率が上がるとそれだけ物価が上昇する。その上、取引の強者である大企業は殆ど消費税の負担はなく、弱者の中小企業は相手に転嫁できずに負担せざるを得ない場合も多い。

 さて、酒井教授の文には現在の帳簿方式では課税の公平性・適正性が保たれるか否かについては一切の考察がなされてなく、単にインボイス制度が公平性・適正性に寄与するとしか記載していない。これでは片手落ちの論理なのだ。また、インボイス制度は適正性担保機能を有しているとして、「例えば売り手側が売上税額を不正に過少申告したい時には、売上税額を実際よりも小さく書けばよいが、そうすると(中略)買い手側はそれを容認しないだろう。」また「他方、買い手側が仕入税額を不正に過大申告したい時には、インボイスに記載される売上税額を実際よりも大きく記載する必要があるが、(中略)売り手側はそれを許容しないだろう。」と述べている。これを読んで思わず失笑を禁じ得なかった。

 インボイスがない現在でも実際の商取引でこんなことはあり得ないし、インボイスは別個に発行するのではなく殆どが請求書等に登録番号を記載する。こんな実際にあり得ない事象を適正・公平の根拠とするのは詭弁である。何もインボイスがなくても業者間の取引では実際の取引に基づいた請求書等により帳簿に記載する。我が国の企業の多くは法人も個人も青色申告制度が普及し、その帳簿の適正性はかなりの精度と言っても過言ではない。

 聞くところによると酒井克彦教授は租税法ではかなり優秀な学者らしいが、この文章を読むと本当に企業の実務を分かって書いているのか疑問を禁じ得ないし、あまりに無知かつ雑な論としか言えない。日本経済新聞にも言いたい、社内に経済や租税についてかなりの知識ある編集者がいるであろうに、こんな論理が雑駁な論文を掲載した無責任も問いたい。インボイス導入で事務負担増大におびえている多くの中小企業がいることも伝えておきたい。


最近の投稿

もっと見る