会長 深田一弥の異見!

2016年3月22日

「適正利潤」の必要性

 政府は3月16日、世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」の初会合を開いた。講師でノーベル賞経済学者でもあるジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授は現在の我が国経済の状況から来年4月の消費税率引き上げは先送りすべきだと提言した。アベノミクスでもなかなか我が国の景気回復が進んでいないことから、同教授は経済成長を促すための財政支出をすべきとも提言している。これでメディアは来年の消費税率アップは先送りだと報じている。

 ところで、同教授はアベノミクスの支持をしている一人でもある。安倍首相以下、日銀の黒田総裁も神妙な顔で教授の講義を拝聴していた。しかし、何も改めてノーベル賞経済学者のご託宣を聞かなくても、現在の経済状況では消費税率アップは暴挙であるのは素人目でも分かることだし、あとは財政支出で景気てこ入れしか方法がないことは明白なのだ。

 だが、ここで大事なことは、ここ十数年来我が国で財政支出をしても経済活性効果が出てこなかったのは何故か?小渕首相時代、景気対策に数十兆円の財政支出をしたにも関わらず経済は回復せず単に赤字国債を増やしただけだった。それはこの頃から世間で談合疑惑が言われ、オンブズマンが活躍して公共支出に厳しい目が注がれるようになった。

 そこで国や地方公共団体は公共工事や物品購入に一般競争入札制度を取り入れ、この際の入札予定価格を従来よりもかなり厳しい見積価格を提示するようになった。かつて公共工事受注や官庁への物品納入は業者にとって収益性が高いいわゆるおいしい仕事だったのが、一転して場合によっては赤字受注になりかねない低収益案件となってしまった。この頃から円高もあって従来よりも低価格での商品販売や飲食が常識となり、企業の低収益性が進行することとなった。

 従来は我が国のような島国では国際的な荒波とは無縁であったのが、色々な面でグローバル化が進みまた同業者間競争が激しくなり、従来から言われていた「適正利潤」という概念が壊されてしまった。資本主義社会では利潤がないと経済は活性化しないことはあらためて言うまでのことではない。

 しかし、現在の経済状況では、この利潤がどんどん削られていくことで特に我が国の殆どを占める中小零細企業の収益性は極端に縮小してしまった。だからスティグリッツ教授が、いくら財政支出が必要と説いても、「適正利潤」の取れない工事や物品購入ではまた「無駄金」となってしまうことは必至だ。このこともスティグリッツ教授には言って欲しかったのだが。

 教授がかつて経済学を学んだマサチューセッツ工科大学(MIT)には当時教授だったポール・サミュエルソン博士が居て、消費財需要が増えると投資が投資を呼ぶと言う「加速度原理」を唱えたが、それが実体経済で証明されるには企業に「利潤」があることが前提だからである。政府で経済活性を企画している面々には金融理論だけでなく、もっとかつてのケインズやサミュエルソン等の経済理論を学び、マクロの統計数字だけでなくミクロの経済実態をも良く調査し把握して経済対策を行うべきである。

 ところで同じ会合の場で日銀の黒田総裁は「企業収益が改善しているのに賃上げのペースが遅いのは不可思議だ」と同教授に質問をしていたが、日銀総裁ともあろう人が如何に経済の実態に疎いかを暴露しているのに気づかない呑気さにあきれたのは私だけだろうか。


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