創業秘話

第2話 法より情が勝る場合もある(雌鳥が啼くと国が滅びる)

 私はある時期から顧問企業には年に盆暮れの2回ご挨拶に伺うことにしている。

ある暮れも押し詰まった頃、私の高校の同級生でかつ顧問先でもある弁護士事務所に暮れのご挨拶行ったら、 私の声を聞いてパーティションの陰から顔を出したのは顧問会社の経営者であった。

「あらっ!どうしたの?」と聞く私に、

その弁護士は「何だ、深田さんが顧問をしているのか? 今、社長から話を聞いたが法的にはどうしようもない。 当初から仕組んでいたのでしょうね」とのこと。

詳しく本人に説明させた。 その会社は友人3名で立ち上げ、順調な業績を重ねていたが、 その業種のブームが去って経営にもやや陰りが見えてきた。 何とかしようと色々手を打つがうまくいかない。

そんな時社長の友人である東京でやはり同様な会社を経営している男が居て 何かプラスになるのではと相手にコンサルタント料を払っていた。

私はこれで何のメリットがあるの?と聞くと 社長は他の二人はあまり頼りにならないのでその友人に色々悩みを聞いて貰っていてアドバイスを貰っているからとのこと。

それでもあまり参考にはならないのでは思ったが、 そこまで言うのも差し出がましいので黙っていた。

ところがその頼りにならない2人が持ち株をその東京の経営者に売り、 社長には退任して貰うと言い出したようだ。

株式は3人で均等に持っていてその2人で3分の2になってしまう。 驚いた社長は何とかならないかと弁護士に相談に来たが何ともならないので困っている。

今まで、この社長は、何か困ったことがあると真っ先に私のところに相談にくるのに そうでなかったのには何か自分にも都合の悪いところがあるなと睨んだ。

私「ところで何でそうなってしまったの?あんなに仲の良かった3人なのに」

社長「私の経営方針が気に入らないようです」

よく、共同経営はうまくいかないと言うが、 この会社は本人の得意分野のパートをそれぞれに務めて共同経営の成功例とも言える会社だった。

業績にやや陰りが出たとは言え、 黒字経営を続けていて会社の内部留保は未だかなりある。

しかし、それぞれ独身時代に始めたのがそれぞれ配偶者を持つようになり、 最近社長の妻が会社に来るようになったのは聞いていた。 かなりの才媛であることはその経歴と私も会って知っていた。 それで今まで和気藹々と3人仲良くやってきたのに2人は違和感を覚えるようになったのではと私は睨んだ。

そこを社長に追及すると、

社長は「実は、そうかも知れません。 妻はこんな生ぬるいことでは会社はいずれ経営に行き詰まるとびしびし改革策を打ち出してきている。」

私は、ハハーんと納得した。

社長夫人は確かに会社のため社長のためと思い必死になって改善策を考えかつ実践しているのは分かるが、 それは他の2人のコンセンサスを得ているのでなく独断で決めていて、 夫である優しい社長は正に才色兼備の妻の言われるがままと思われたのだろう。

他の2人にしてみれば自分たちの領分を侵されては面白くない。

私は言った「社長、法的には駄目でも私の言うとおりにすれば必ずストップできます。 但し、社長には奥様に言ってしばらく会社には来ないようにして貰いたい。

昔から「雌鳥が啼くと国が滅びる」と言うでしょう!」。

側で聞いていた温厚な紳士でしかも人権派の弁護士は「深田さん、それは女性蔑視ですよ!」、

「いや、そうかも知れないが、中国4千年の歴史が教える真実だから」と私、

さらに「兎に角、二人の内の一人がキーマンだから これから彼の家に行き不在でも兎に角帰ってくるまで粘っていなさい。 そうして自分の奥さんの専横について社長が心から謝り、改善を約束して下さい。

そうしたら彼は絶対に株を売るのを止めますよ!彼がOKしたらあと一人は絶対に大丈夫」 とテキパキと指示をした。

弁護士先生、そばで聞いていて感心することシキリ。 法で駄目でも情に訴えるのは未だ日本では有効です。

結果はうまく行き、めでたしめでたしだったのだが、 結局これがもとで2人は会社を去っていった。

一人になった社長は心細くなり、 件の東京の経営者を頼りにして会社を吸収合併させてしまった。 これも合併してから私に報告に来た。

結果は見えていたが本人の決断なのでしょうがない。 東京の会社の支店となったので当事務所の顧問は外れた。

3年程経った頃だろうか、その社長がまた来所した。 合併してから分かったことだが相手の会社の業績が厳しく支店である旧会社の内部留保は本社に殆ど吸い取られてしまったとのこと。 そこを退職して新たに個人企業として再出発しますと言ってきた。


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