創業秘話

第8話 借地人のミス

 土地所有者しかも好立地の場所の土地を持っている人は他人からみれば贅沢な悩みを持っている。 現在の受取っている地代が果たして合理的なのか、安過ぎではないのか(決して高すぎるのではないかとは考えない)、と言うことだ。 何故かと言うと、そういう土地は誰でも目を付けていて色々な好条件で貸してくれないかとの提案がされるからである。

しかし、一度土地を貸してしまうと、立ち退きさせるのは簡単にはできないし、 さらにそこに借り主の建物が建ってしまうともうなかなか立ち退かせることができない。 それでは地代を上げればよいのではと思うが、地代を上げると言うことも並大抵の努力ではできない。 何故かと言うと土地を借りると借地権という権利が発生する。

例えばかつてこんな事があった。 地主が借り主の経済力を斟酌して安い地代で長年貸していたが、そこが都市計画で道路に取られることになり、 借り主に立ち退きを迫ったところ、法外な立ち退き料を請求された。 地主は今まで借地人のためを思い安くに貸していたのにと言ったら、 相手の弁護士は確かに安いのは認めるがそれは借り主の借地権を認めていたから安くしているのだと言う論理で来た。 その地主の祖父が、当時引き売りをしていた借地人の先代がどうしても店を持ちたいので土地を安く貸してと頼まれ、 好意でしたことなのにウラを掛かれたと憤慨していたことがあった。 このようになかなか難しい問題をはらんでいる。

ここに紹介する例は、ある地元大型店に土地を貸していた例である。 ここも長年賃料を改定しないで居たが、地価がかなり高騰したことにより、 地代の改定をお願いしたが、その会社は業績不振を理由になかなか値上げに応じない。 数パーセントの値上げならと言うが、地価は契約当時よりも数倍の値上がりになっていて、 他から現在地代の数倍で借りたいとの話もあり、地主としてはせめて現行の2倍の地代にして欲しかった。 ところがなかなか相手の交渉に立っている役員は老練な人で色々理由をつけて首を縦に振らない。

たまりかねて地主は私に助けを求めてきた。 契約書を詳細に読んだ私は、相手がとてつもないミスをしていることを見つけた。 その店の看板名は同じだが、別会社を設立してその店舗をその別会社に移行していたのだ。 つまり契約書には店の権利を他者に譲るときは地主の了解が必要である条項があり、この違反は即刻契約解除となる。 これを発見して私は相手方との交渉の場に臨んだ。

強気の交渉相手はここまで地主が値上げ率に強硬なら、弁護士を依頼して今後は弁護士と話を詰めてくれと言う。 そこで私は、上記の契約違反を通告した。 これは即刻契約解除となるが良いのか?とは言うものの、御社もそれは困るだろうからこちらの値上げを飲んで欲しいと言った。 相手は虚を突かれたものの、それでも同じ店名なのだからこの条項には当てはまらないと執拗に言う。 私は、それなら御社の弁護士さんに相談して御社の主張が通るか聞いて見なさい。 と自信満々に応えた。 相手方の弁護士は地元ではかなり有名な辣腕弁護士でこの名前を出せば地主さんも引っ込むのでは考えていたのだろうが私からそれではその弁護士に相談してみろと言われて黙ってしまった。 しばらく経って後、相手から連絡があり、地主さんの要求通りの地代値上げを認めるので何とか契約解除はしないで欲しいと言ってきた。