創業秘話

第6話 円満立ち退きのコツ

 当時の私の客で初代が事業で財をなして多くの土地を残した三代目の人が、他県の土地を相続した。 その土地は4つの企業が賃借し建物を建てて営業していた。

ところが相続問題が長引き、実際に自分の所有になるまでに10年以上の歳月を費やしてしまっていた。 その間、地代の値上げはしないままでいたが、その好立地に目をつけたある企業がそこを全て買い取りたいと言ってきた。 本人に売る気はなく、好条件で賃貸できることとなった。 そこで賃借人に、突然弁護士を依頼して立ち退きの文書を送りつけた。 驚いたのは4社の社長で、それなら我々も共同して弁護士を依頼して対抗しようと言うことになった。 それでは裁判しかないと観念した地主である本人から私に相談があった。

私が先ず言ったのは

「4社の社長さんに会ったことはあるんですか?」

と聞くと、その地主は

「かなり昔に会ったことはあるが、今まで相続争いしていてそれどころでなかった。 4社も今まで安い地代で借りていたのに、随分権利主張が強いものだ」

と言う。
私は

「そうかも知れないが、安いとは言え、今まで滞りなく地代を払っているのだし、 先ずは自分が相続して地主になったことの報告、長年土地を借りて頂いた事の御礼、 そして、今回こういう事情で他に貸したいので立ち退いて貰いたいことを自分から身体を運んで丁寧に説明すべきでしょう」

と諭した。
そうすると

「それなら深田さん一緒に行ってよ。 できれば深田さんが交渉してよ!」

と言う。
私は、いつものとおり

「私は弁護士ではないのだから」

と断る。

「でも賃借人がどういう人か見たいので一緒には行きましょう」

となった。

仙台から数時間掛けてその場所まで同道した。 地主には、前述のように口上を伝授して先ずは先走って出した弁護士からの立ち退き通告書は無かったことにして最初からの交渉とした。 一社ごとに回ったが、どの賃借人の社長も「遠方からわざわざお越しになって」と丁寧な応対だ。

「我々も弁護士をとおしての交渉は本意でない。 地主さんが弁護士依頼を取り下げるなら、我々も取り下げます。 ところで税理士さんあなたが間に入って頂けませんか?」

と異口同音に言う。
地主は我が意を得たりとばかりに

「私もそうしたいと思います」

と言ってしまった。
行く前に地主から4社の内1社は多分簡単に応じてくれるが他の3社は手強いはずだと聞いていたので緊張したが、どうもそんな様子は見られなかった。

それから半年間毎月1回交渉に行くことになってしまった。 何回も通っている内にお互いに仲間意識が芽生えてくるのも東北人の良いところだ。 さらにその一社の社長は私の関与先社長の地元の後輩、別な一社の社長はやはり私の関与先の社長と同業団体の役員同士、 また他の一社の社長夫人の実家が私の良く知っている税理士と親戚関係という事が分かった。 こうなると立ち退きを依頼されているのに私が行くと好対応してくれるようになった (意地悪く考えればそうしておいて交渉を有利に進めたいとの思惑があったのかも知れないが)。 それで当初彼らが要求していた立ち退き料はかなりの程度まで低くすることができた。

ところがいよいよ契約と言う段になって地主の方はお金が惜しくなったようだ。 「深田は賃借人の肩ばかり持っている」と言うのだ。 交渉経過を粒差に報告していた私はこれには怒った。 結果は何とか地主も納得したが、税理士は弁護士と違い一方の利益代理人でないからこそ相手も信頼してくれたし、 私のネットワークもあってこれだけの金額に留まったのにと思ったがこのことがどうも不満を引きずったようだ。 その地主は何年か後、あることがきっかけで顧問を断ってきた。