創業秘話

第3話 減資は興信所が目を付ける

 時には失敗もあった。

昭和50年代のことであるが急成長している会社のナンバー2である専務が亡くなった。 未だ40代の若さである。

その四十九日が終わって間もなく、その夫人から社長に会社株式の引き取りを依頼された。

社長は未だ50歳になったばかり、亡くなった専務は弟である。 ところが父である創業社長が亡くなってから未だ2年も経っていない。 急成長会社におきまりのとおり、相続財産となった会社の株式の評価が高く、 父の保有していた株式全額を社長が相続したものだから、 その相続税を支払ったため社長個人は専務所有株式を引受けたくてももうお金がないと言う。

そこで私が相談を受けた。
社長は自分で何とか額面で引き取れないかと言う。 相続税評価だと2千万円する株式の額面は2百万円である。 もし社長が弟の遺族から2千万円の評価の株式を2百万円で購入したら差額1千8百万円の贈与を受けたことになり贈与税が大変だ。 それはできませんと言ってしまえば単なる税理士でしかない。

私は何とかしましょうと請け負った。

そこで会社が亡専務の株式全額を額面200万円で購入することにした。 これなら会社なら額面でも税務の問題は出ない。
しかし、当時の商法では会社は自己株式を一時的にしか保有できない(現行会社法では自己株式保有は認められている)ので、 会社が買い取った株式は誰かに売却するかあとは消却するしかない。

私は社長に消却をしてその額面だけ資本金を減額することを進めた (かつての税法では、株式を消却すると他の株式の評価が高くなるので課税されたこともあったがその当時その規定は無くなっていた)。 社長も自分で2千万円出さないといけないと思ったのが会社で2百万円出すだけ、 しかもその株式は消却でなくなり転売先もさがさないためご満悦であった。

そして1か月が経過した。

ところが突然全国各地の取引先(主に仕入れ先)から問い合わせの電話がジャンジャン鳴り始めた。

「御社は減資をしたがどういう理由によるものなのか?」と。

通常、減資は赤字企業がその補填のために減資益で赤字を埋めるのに使う手法が多い。 自己株式消却にはあまり利用していないのが実状だ。 社長は途端に説明に汗だくになってしまった。 これは赤字消却でなく、会社で買い取った株式の消却なのですと。 説明をしてやっと相手方は安心したそうだ。

何で分かったのだろうと私は不審であったが、後日興信所の会報を見て納得した。 会社の変更欄と言うのがあり、増減資や代表者変更等が掲載されてある。 しかし全国の業者は常に自分の売掛先の信用状態にはこれほどまでに神経を使っているのかと感心した。 社長からは深田を信用して行ったのに、とんでもない信用失墜になるところだったとお小言を頂戴した。