書評

2017年10月10日

覚悟 戦場ジャーナリストの夫と生きた日々

  • 書籍名: 覚悟 戦場ジャーナリストの夫と生きた日々
  • 著 者: 橋田 幸子
  • 出版社: 中央公論新社

「歴史的に我が国は国民を守ろうとしない国である」
イラクに散ったジャーナリスト、橋田さんの妻の孤独な戦い

 我が国が一時の好況を謳歌していた時代から、景気回復のために呻吟している現在まで一貫して変わらないのが周辺国の我が国への対応と申し上げて良いでしょうか。特に最近は我が国力の衰えを見透かされたか、中国の東シナ海に置ける不穏な動き、韓国の我が国領土「竹島」の不法占拠、ロシアは50年以上北方領土を不当に強奪したまま居座わり厚かましくも一部返還の提案、我が国民を拉致し発覚してもなお強面で対処する北朝鮮。いずれも我が国の弱腰対応に図に乗っての行為には腹が立ちます。これらは戦後から続いている力の外交に不慣れな我が国の歴史的な課題とも言えるでしょう。イラクへの自衛隊派遣は或る意味で小泉首相の決断を評価するものの、アメリカの攻撃の是非についての議論がされていないことと、軍事について基本的な意識の転換がないままでの行動は危惧の念を禁じ得ません。その懸念は現地での日本人誘拐、2人の外交官に続いて、さらに2人のジャーナリストの殺害とそれら一連の事件への国の対応で証明されたのではないでしょうか。

 今回の本は亡くなったジャーナリスト橋田さんの奥様が書いた「覚悟」としました。 テレビでは笑顔で気丈に振る舞っていた彼女を思い出せるでしょう。でもこの本を読むと危機対応の面で日本の国は全く変わっていないのだなと落胆してしまいます。被害者の家族でありながら事実究明に奔走する彼女も見事でしょうが、本来国が為すべきことを全くしようとしない官僚に対して我々は何のために税金を払っているのかと慨嘆せざるを得ません。私の持論である「歴史的に我が国は国民を守ろうとしない国である」と断言しても間違いではないようです。 是非この本をお読みになって我が国の行く末に思いを馳せて頂きたいと存じます。