書評

2017年10月10日

散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道

  • 書籍名: 散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道
  • 著 者: 梯 久美子
  • 出版社: 新潮社

この指揮官のあり方は、必ずや企業経営者の参考になる

 新聞・テレビ等では、至上空前と謳っているにもかかわらず、これほど実感のない好景気はかつてはなかったのでは?地方や中小企業そして個人にその恩恵が波及してこない好況とは全く皮肉な構造改革と言えます。

  ところで、「IwoJima」という言葉は、米国のある年代の人々には特別な感情を持って受け取られるようです。太平洋上に浮かぶ絶海の孤島「硫黄島」は、日米戦争の陸上戦で、唯一、攻め落とした米国側の被害の方が大きかった戦場であり、当時全米の新聞に載ったAP通信のカメラマンによる摺鉢山に掲げる星条旗と6人の兵士の写真が米国民に強烈な感動を与えたからのようです。

  何故米軍が当初5日で落とせる予定なのが36日間もかかり、2万数千人の死傷者を出すに至ったのか? 硫黄島を守る日本軍には栗林忠道中将と言う卓越した陸軍の指揮官が存在したからです。高級軍人に珍しく現場主義を徹底し、軍規には極めて厳しいが、反面部下から慕われる人間味豊かな将軍であり、現地から家族に宛てた数十通の手紙の内容は家族愛に溢れているものでした。米国留学の経験もあり、早く和平をと大本営宛てに意見具申すらしていたのです。

 最近、著名な俳優でもあるクリント・イーストウッドが監督し、米国側からこの硫黄島の戦いを描いた「父親達の星条旗」の映画製作をしたが、彼が栗林中将の手紙を読んで大いに感動し、日本側からも作らないと片手落ちになると「硫黄島からの手紙」として、2部作にしたことは映画通には大きな話題です。

  今回お持ちする本「散るぞ悲しき」の題名は、栗林中将が最後に悲痛な思いで大本営に宛てた訣別電報にある、辞世の句の一つ「国の為重きつとめを果たし得で 矢弾尽き果て散るぞ悲しき」からとっています。この指揮官のあり方は、必ずや企業経営者の参考になると存じます。年末年始のお忙しい時期ではありますが、是非、ご一読をされることをお勧めいたします。