所長 深田一弥の異見!

2023年7月3日

焦土作戦

 ロシア軍がウクライナに侵攻してから早1年半を経過した。当初はロシア軍が早々にウクライナ全土を掌握するのではと思われたが、ウクライナ軍が大健闘し未だロシア軍は、以前占拠した南部クリミヤ半島と新たに侵攻した東部ドンバス地方の一部を占拠しているに過ぎない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、さらに西側の強力な支援を得て、東部ばかりかクリミヤ半島も奪回しようと強気である。

 しかし、頼みの西側は、あまりに大規模かつ強力な支援を行うと、ロシアを刺激し、核兵器使用の懸念からか及び腰の感が否めない。この戦いがさらに長期に亘ると、世界的に経済面での被害が甚大になってしまう。21世紀になっても、一人の為政者の誇大妄想がここまで世界的な影響を及ぼすとは誰が予想したであろうか。

 5月末頃からウクライナ軍の反転攻勢が始まったが、6月6日、ウクライナ南部ヘルソン州のドニエプル川に架かるカホフカ水力発電所のダムが決壊し、20集落で2600戸以上が浸水し、住民1700人以上が避難した。被害は広がる見込みで、占領地域のロシア関係者はドニエプル川沿いのロシアとウクライナの支配地域でおよそ4万2000人が洪水被害に遭う危険性があると予想し、国連の支援責任者は重大な影響が広範囲に及ぶと警告した。

 さらにドニエプル川沿いにあるザポリージャ原発の冷却水への影響や、クリミヤ半島への給水にも影響が出てくる懸念がある。さらにロシア軍の仕掛けた地雷原の地雷が流出し多大な人的被害が発生する危険も大である。

 ダムはウクライナ侵略後、露軍が占拠していたが、ウクライナとロシアの双方が「相手がダムを破壊した」と非難している。私はこのダム破壊はロシア軍による焦土作戦に似た戦術の一環としてのものだと断言する。

 焦土作戦とは、戦争等において、防御側が、攻撃側に奪われる地域の利用価値のある建物・施設や食料を焼き払い、その地の生活に不可欠なインフラの利用価値をなくして攻撃側に利便性を残さない、つまり自国領土に侵攻する敵軍に食料・燃料の補給・休養等の現地調達を不可能とする戦術の一種である。

 フランス革命後に数々の戦果を上げフランス皇帝となっていたナポレオンは、1812年、ロシアへの侵攻を決意し、4月、ナポレオンは約50万という空前の大軍を率いてロシアへの遠征を開始した。兵力に劣るロシア軍を撃破し、9月にはモスクワを占領した。

 ところが、ロシアは講和に応じず、ナポレオン軍のモスクワ滞在は長引く。ロシア軍はモスクワ市街に放火するなど焦土作戦をとっていたため、ナポレオン軍は満足な宿舎や食料などの物資を調達できず消耗していった。そこへとどめを刺したのが、ロシアの厳しい寒さで、飢えと寒さでナポレオン軍は総崩れになってしまった。

 今回のダム破壊はロシアが占領地の住民の安全などは考慮せず、ただ単に領土奪回で優勢になったウクライナ軍に勝利者のメリットを与えないために取った作戦と考えるのが妥当である。ロシアの戦争は伝統的に勝利の確率が高くないと始めないし、先兵は囚人兵か捕虜、武器がなくても兵を進軍させる。かつてスターリングラードと言う映画にあったが、進撃するドイツ軍に対して反撃するソ連軍の兵に渡されたのは2発の弾丸のみで、銃は、先に攻めて倒された自軍の兵から奪って使えと言うモノだった。

 ナポレオンの時代からかなりの年数が経ってもロシア軍の考えは変わっていないなと感じた。


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